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3.11後・空気の正体

昭和の預言者(故山本七平氏)の視点をかりながら3.11後の日本社会のおかしな空気の正体を解明したいと考えております。特に菅元首相に対する魔女裁判のごとき我々の異常な憎悪を詳しく検証するつもりです。

感情国家の日本と合理主義の北朝鮮、米国

嫌韓派の人々が韓国人(朝鮮人)はとにかく感情的で情緒的だからつきあえない・・・とかいうツィートを発信しているのをたまに見かけるが、私からいわせればおそらく彼らの方こそ感情的な人々なのだろうと思う。たとえば今回の歴史的米朝会談に至った経緯をみても、感情国家の日本では到底想像もできなかったのではあるまいか。

私自身は韓国の文大統領が平昌オリンピック前から必死で米朝対話の実現に努力している最中、日本の安倍首相がこれまた必死にその実現を妨げようとしている姿をみて絶望と同時に失笑を禁じ得なかった。要するに日本人は劇的に軍事的緊張が解かれて平和が訪れるという場面を想像さえできないのである。だからこそ日本は太平洋戦争前にアメリカからハルノートといわれる最後通牒(?)を渡された時、もはや開戦しか道がないと思い込んだのだろうが、これは前にも述べたように日本人が論理的に考える能力がなく、その場の感情に任せて行動してしまう傾向が強いという典型例でもあったわけだ。

そもそもハルノートを今読み返すと、これは当時の日本にとっては「渡りに船」と受け取ってもよいぐらいの好条件であることに気づくと、なぜこれを東條らは宣戦布告の宣言文のように受け取ったのであろうかと不思議でならない。このハルノートと北朝鮮が日米韓中(ロ)から受け取った経済制裁と一体どちらがより理不尽なものであろうか。

以下ハルノート
所謂四原則の承認を求めたるもの
(一)日米英「ソ」蘭支泰国間ノ相互不可侵条約締結
(二)日米英蘭支泰国間ノ仏印不可侵並仏印ニ於ケル経済上ノ均等待遇ニ対スル協定取扱
(三)支那及全仏印ヨリノ日本軍の全面撤兵
(四)日米両国ニ於テ支那ニ於ケル蒋政権以外ノ政権ヲ支持セサル確約
(五)支那ニ於ケル治外法権及租界ノ撤廃
(六)最恵国待遇ヲ基礎トスル日米間互恵通商条約締結
(七)日米相互凍結令解除
(八)円「ドル」為替安定
(九)日米両国カ第三国トノ間ニ締結セル如何ナル協定モ本件協定及太平洋平和維持ノ目的ニ反スルモノト解セラレサルヘキモノヲ約ス(三国協定骨抜キ案)


このハルノートは日本に科された貿易制裁(主に石油の全面禁輸)を解除する為の条件を書いたものである。日本に求められているのは、支那(中国)からの日本軍の全面撤退という条件だけである。ここには朝鮮半島および台湾に対する支配権ばかりか満州の支配権の放棄さえも言及されていない。要は盧溝橋事件後に発生した日本軍による中国全土に及ぶ侵略行為を止めよという要求だけである。この条件をみたせば(六)項で「日本を最恵国待遇することを保証するよ」と約束されている。

したがって日本はこの時、ハルノートを受け入れていれば、満州及び朝鮮、台湾をそのまま日本の植民地として国際的にも認めさせることができたはずなのだ(私は植民地支配が正当だったといっているのではない)。なのに、なぜこれを受け入れることができなかったのだろうか?これは本当に不可解である。

当時の日本は蒋介石を南京から追放し重慶に追い詰めてはいたが重慶まで進軍することはきわめて難しかった。このために近代戦争史上でも初といわれる戦闘機による大規模空爆をしていたが、これも十分な成果をあげることはできなかった。しかたなく日本軍は仏印に侵入し、インドシナから重慶を秤量攻めで追い込もうという考え方になっていた。ここで蒋介石政府を助けたいと思っていた米国から待ったがかかりハルノートを突きつけられるという事態になった。ハルノートが特に仏印に言及しているのはそういった情勢からである。しかし米国はこのハルノートで日本軍が撤退すれば貿易制裁を解除するだけではなく最恵国待遇をしますよとまで約束していたのである。元々、日本は中国全体を自国の領土にしようなどという法外な望みはもっていなかったので、このハルノートを受け入れれば日本にとっては国益上はむしろ渡りに船だったはずなのである。

ではなぜそれを受け入れられなかったのか?それは山本七平が「日本人と中国人」で指摘していた通り、「感情」がすべてに優先したからであった。詳しい経緯は省くが、要するに日本政府は南京まで陥落させて意気上がる軍隊を撤退するわけにはいかない。蒋介石をこてんぱんにやっつけるまでこの戦争を止めることはできないのだ、と思い込んでいたらしい。これは当時の政権や軍部の意向だけではなく、大多数の国民感情でもあったのである。だから米国の脅しに負けるわけにはいかないと、彼らは逆にハルノートに対して反発を感じた。

一方、北朝鮮は決して日本のように他国を侵略したわけでもなく、むしろ仮想敵国として米日韓に包囲され核兵器でも脅しをかけられている中で、なぜ無慈悲ともいえる経済制裁を受けるのかという彼らなりの憤りがあるはずだ。彼らにとってはあくまでも自分自身を守る為の核ミサイル開発にすぎないのだという思いもあるだろう。しかし米国は北がICBMを開発する前に一方的に先制攻撃を仕掛けるという脅しをかけてきた。もし米朝戦争になれば真っ先に犠牲になるのは日本であることは地政学的にも明らかであるにもかかわらず、安倍政権は米国の先制攻撃論を支持していた。一方、それに対して韓国は米朝戦争になると自分たちの命が危ない事がわかっているので、文大統領はオリンピックを機会に必死になって南北融和ムードを作り上げようとした。

あたりまえである。米朝戦争になれば朝鮮半島は再び殺戮の半島となり多くの犠牲がでる。そこでもし核兵器が使われたなら数百万の韓国民の命も犠牲になる。同時に彼らの同胞である北朝鮮の民衆も多くの命が滅ぼされるだろう。だからこそ文は必死になって融和ムードを演出し、そしてあれほど反米に頑なだった北の金正恩を劇的に変えることに成功した。

日本の安倍政権はまさかと思っただろう。かつての自分たち日本民族の経験では経済制裁を受けても政策が180度変わるという事はなかった。だからこそ対話をやっても無意味だと安倍政権は断言していたのだろう。

しかし金正恩や朝鮮、韓国の人々は日本人のようにやみくもに意地になって、負けると分かっている戦争に突っ込むという向こう見ずのかつての日本軍人とは同じではないことを、今回の出来事は証明している。一方、アメリカもそうだ。実際の所、アメリカは米朝対話を望んでいなかった。なぜならこのまま融和ムードが進展して、本当に北朝鮮が米国の仮想敵国ではなくなってしまうと、米国のアジアにおける役割が大きく変わり、下手をすると自分たちの莫大な軍事利権をも失くしてしまう可能性がある。そのことはフィリッピンの米軍基地を放棄してから彼らが痛切に感じている事である。在日米軍も沖縄の基地もすべてはこの地域に緊張があるからこそ必要だと思われているのであって、もし緊張がなくなれば沖縄の基地反対闘争にも説得力が増すだろう。

したがって米朝対話があるからといって、必ずしも将来を楽観できない。北との融和は進んでもロシアや中国の脅威があるということを米国は強調するだろう。そうして安保体制を堅持しつつ、この地域の軍事的緊張を減らそうという努力には抵抗するだろう。

しかし外交音痴の安倍首相にはそもそも北の金正恩がなぜ急に変わったのかがいまだに分かっていない。彼は最大限の制裁の効果であったからだというのがせいぜいである。しかし金正恩は、元々、このような政策の180度の変更を予定していたとみる方が正しい。彼がめざしていたのはいたずらに米朝の軍事的緊張を煽る事ではなく、アメリカが米朝対話を受け入れるしか選択肢がない状況を作り出すことであった。その為には米国本土に届く核ミサイルをなんとしても開発しなければならなかった。でなければ米国は本気になって米朝対話をやろうとしないことは当然だっただからだ。

まさにそのような金正恩の計算通りに韓国文大統領の仲介役もあって米国が動き出したのだから、彼にとってはほぼ予定通り、まさに計算通りの成果だったといえるのではないか。

北朝鮮が本当に望んでいるのは国家としての独立と経済的な繁栄である。その為には朝鮮戦争の終戦宣言を通じての米国との和平条約と経済支援が欲しかったのである。そのすべてを彼らはいま手に入れようとしている。おそらく彼らはこれから南北の統一も模索するだろう。なぜかというと、韓国の経済力が今やいくつもの分野で日本を上回るほどの成長を見せているからである。彼らはもし南北が統一すれば経済でも国力でも日本を凌駕する国家に生まれ変わるだろうと考えているかもしれない。もちろんそこまで金正恩自身が考えているかどうかは分からないが、日本が朝鮮半島を強引に併合したその報いが、いつかそういう形で跳ね返ってこないとも限らない。但し、われわれはむしろ隣国が発展することを喜びとできるほど成熟した国になりたいものだと思う。

補足:金正恩は感情で動く人ではなく元々合理主義者だという分析はアメリカのシンクタンクが指摘したいた通りであった。元々合理主義者のアメリカにとっては感情民族の日本よりはむしろ合理主義的に動く朝鮮民族の方が理解しやすい相手といえるかもしれない。

2018./3.25 本項未定
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