3.11後・空気の正体

昭和の預言者(故山本七平氏)の視点をかりながら3.11後の日本社会のおかしな空気の正体を解明したいと考えております。特に菅元首相に対する魔女裁判のごとき我々の異常な憎悪を詳しく検証するつもりです。

トランプ現象と安倍現象の近似性

アメリカで吹き荒れるトランプ現象と安倍政権の支持率の高さにはどこか共通する無気味さがあると感じてきた。いずれも右寄りの支持層に支えられており、その掲げる政策も似通っている。トランプ候補が特に目立っているのはその極端な排外主義であろう。イスラム教徒は入国禁止にするとかメキシコとの国境に壁を作るという極端な発言が波紋を呼んでいるが、なぜかそういった過激発言によって支持率に陰りをみせることがない。安倍政権の場合はそこまで極端な主張をすることはないが排外主義者であることに変わりはない。

昨年、シリア難民問題が世界に吹き荒れていた頃、国連総会の帰りの席で内外の記者から質問を受けていた。通常の安倍総理の記者会見では質問内容が先に渡され、それに対する答えもあらかじめ用意されている、いわゆる出来レースのようなやりとりがなされるだけであるが、その日はロイター通信社のブラントム記者があらかじめ提出していた質問をし終わったあと、不意に追加質問をして安倍総理を慌てさせた。

「シリアの難民については、日本は新しいお金をイラクにもだすとのことだが、日本が難民を受け入れるという可能性についてはどう考えるか」

これに対して安倍総理はアドリブで次のように答えた。
「今回の難民に対する対応の問題であります。これはまさに国際社会で連携して取り組まなければいけない課題であろうと思います。人口問題として申し上げれば、我々はいわば移民を受け入れる前にやるべきことがあり、それは女性の活躍であり、あるいは高齢者の活躍であり、そして出生率をあげていくにはまだまだ打つべき手があるということでもあります。同時にこの難民の問題については、日本は日本としての責任を果たしてゆきたいと考えておりまして、それはまさに難民を生み出すための土壌そのものを変えてゆくために、日本としては貢献してゆきたいと考えております」

この答弁のおかしさについてニューヨークタイムズ前東京支局長M.ファクラー氏が次のように批判している。

ブラントム記者は「難民」について質問しているのに、安倍総理は「難民」と「移民」をごちゃ混ぜにして答えている。移民が頭から離れなかったためか、「女性の活躍」「高齢者の活躍」「出生率」というシリア難民とはまったく関係ない国内問題について、語り始め、非常に間が抜けた発言になってしまった。安倍総理が難民問題について日頃きちんと考えていないことが、ニューヨークを舞台にした記者会見で明らかになった。

ついでながらM.ファクラー氏は次のように日本のメディアについても苦言を呈した。

一国のリーダーが想定問答のような記者会見を開くなど、民主主義国家では考えられない。
アメリカの大統領が記者会見を開くときには、質問項目など誰も事前には提出しない。日本では官邸が記者クラブメディアを完全にコントロールしており、記者会見では想定外の質問が飛んでくるという緊張感は生まれない。「不規則発言」が民主主義国家の記者会見では当たり前なのだが、日本でそんなことをすれば、「オマエは何を勝手なことをやっているのだ」と怒られてしまう。官邸の記者達は、権力側からの管理によってあまりにも縛られ、またそのことに慣れすぎている。

あの記者会見のおかしさと滑稽さについて、日本の主要なメディアがきちんと報道しないことも私には驚きだった。質問事項を事前に提出するよう官邸が記者に迫り、記者はその指示に従順に従う。国際社会で最も緊急性が高い難民対策というホットイシューについて誰も質問しようとしない。このおかしさを指摘する日本の大手メディアは皆無に等しかった。政府から得る情報でなければ、報道する価値はない。外務省が発表しないニュースはノータッチですませてしまう。メディアが政府から完全にコントロールされている現在の日本のジャーナリズムは、およそ健全ではない
。マーティン・ファクラー著「安倍政権にひれ伏す日本のメディア」より
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今、日本のメディアはこぞってアメリカ大統領予備選の中でトランプ氏の異常発言を取り上げ、なぜこんな人物の支持率が高いのかという疑問を投げかけているが、安倍総理の記者会見のおかしさについては記事にもしない。自分達が官邸にひれ伏していることに自責の念さえもなく、官邸のメディアコントロールをしたいようにさせている。

確かに、安倍総理とトランプ氏を比較してみると、トランプ発言の異常さの方が際立っているだろうが、安倍総理の中にも非常識な排外主義が顔を覗かせることがこれまでにも頻繁にあった。在特会等によるヘイトスピーチデモは世界でも広く伝わっている。それらの団体が安倍政権と繋がっていることも世界に知られている。安倍政権の閣僚が在特会ネオナチ団体と親しく写真を撮った画像も世界に流れている。

一昨年、安倍総理の肝いりでNHK会長に就任した籾井氏が慰安婦問題でとんでもない発言をしたニュースは世界中に流れた。その後、世界のジャーナリズムの安倍政権をみる目は一段と厳しくなっている。NHKとの長年の友好関係がある英国のBBC放送もNHKと距離を置くようになり、同じ英国のタイムズ紙は昨年ウィリアム王子が訪日した際に籾井会長と会談したのを批判的に報道していた。安倍自民党政権の慰安婦問題や南京虐殺に対する一連の対応は国連をはじめ世界中から顰蹙を買い日本及び日本人に対する不信感はかつてないほど高まっている。

ところがこのような安倍政権に対する世界の厳しい目があることを日本のメディアは一切伝えない。そうすることは愛国者を刺激するからであろうか?

確かに安倍総理はトランプ氏のように極端な暴言を吐くタイプではない。彼の発言は常にオブラートに包まれており一見穏やかな政治家であるかのようにみえる。また彼の発言は日本人独特の玉虫色の発言が多く、外国人には意味がわかりづらいだけではなく、同じ日本人でもいかようにもとれる発言を繰り返している。

しかしトランプ現象と安倍現象はいずれもナショナリズムという古い価値観をよみがえらそうとしている点で共通しているのではないだろうか。

トランプ現象が異常に注目されているのはアメリカではとうにすたれていたはずの古い価値観を呼び醒ましアメリカ人に昔の栄光の時代を思い出させるような発言を繰り返しているからだろう。同じように安倍総理もまた「日本を取り戻す」という言葉を何度も繰り返して古い価値観を取り戻そうと訴えているかのようである。

ナショナリズムという価値観はかつての第二次世界大戦を支配した当時の時代精神である。この戦争が終結した後は共産主義というアンチナショナリズムが台頭し、アメリカとソ連との冷戦体制ができあがった。80年代の終わりになって、この冷戦体制は突然終焉したが、その後にもたらされたのは地域紛争の種になったナショナリズムの新たな復活であったが、アメリカが主導する新自由主義世界体制(グローバリズム)への流れが、冷戦後の新たな価値観として定着しつつあった。

その流れの中で起こったのが9.11であり、そしてアフガン及びイラク戦争である。ブッシュ大統領は何がなんでもグローバリズムを広めることに執念を燃やした。その為にはイスラム体制を新自由主義体制へと組み込んでいかなければならない。テロとの戦いという新たな旗を掲げながら、イスラム諸国を民主化してゆくことが米国の新たな世界史的使命であると彼らは信じた。しかしその戦いがもたらしたのはおびただしい数の悲劇であり、テロの再生産に他ならなかった。ブッシュの間違った使命感は粉々に打ち砕かれた。

しかしイラク戦争が終結し、遅ればせながらもイスラム諸国に民主化の流れが起きたことも事実であった。チュニジアで起こったジャスミン革命がエジプトやリビアにも波及し、独裁政権があれよあれよという間に打倒されることになった。この急速な動きはまるで東欧革命の再来のようであったが、その流れがシリアのアサド政権打倒へ結集した内戦に発展すると事態は一変することになった。

当初、シリアでも民主化の為に武器をもって立ちあがった市民もいたはずだが、そこにイラク戦争の敗残兵たちが流れ込んできて「イスラム国」という新たな旗印の聖戦を起こし、シリアでの戦争は三つ巴になった。同時に、このイスラムの民主化に逆行する流れはエジプトやリビア、そして中東、アフリカを巻き込み、まさに文明の衝突へと発展していった。この悪夢のような反文明主義の台頭は第二次大戦後の米ソ冷戦とはまったく趣の異なったものである。もはや世界には国家という名の枠組み自体があいまいになり、対国家の戦争から不特定のテロ集団を相手にしなければならないという時代になった。

このような暗い影が忍び寄る時代の中でアメリカにトランプ現象が起こったことは象徴的である。トランプ氏の主張をみると、アメリカを冷戦時代どころか世界大戦以前の時代に戻したいという目標を掲げているのではないかともみてとれる。即ちアメリカが世界大戦以前にとっていたモンロー主義の復活である。世界の警察官をやめアメリカ一国の繁栄だけを求めればよいのではないかという復古主義である。

一方、安倍総理もまた別の意味での復古主義を追い求めてきた。彼は日本の経済力が弱くなっていることに危機感を抱き、世界に冠たる強い日本経済を取り戻す等というフレーズを繰り返し、その目的の為にアベノミクスを主導した。しかし彼がやったことは単に金融緩和を際限なく続けることで円安を誘導すれば株価があがるだろうという浅はかなものであった。この手法は日本経済を強くするどころか、逆に日本経済を弱くすることに貢献したことはいうまでもない。なぜなら急激な円安によって日本のGDPは国際通貨のドル建てでみると激しく落ち込むからである。安倍政権になって以来、日本経済が低迷しているのは単に需要の落ち込みだけではなく、国際競争力自体が弱くなったためである。

安倍総理とトランプ氏はかつてのヒトラーやムソリーニのような独裁者を彷彿させる部分が多くあるとは必ずしもいえないが、少なくとも暗い時代の中で咲くあだ花でしかないという点では共通しているようにみえる。二人とも世界の閉塞状況の中に咲く妖しい花々である。国民はこの暗い時代の中で他に選択肢があることさえみえなくなっている。出来る限り大きな声で強い主張をする。綺麗事を並べて未来がバラ色であるかのように錯覚させる。あろうがなかろうが大風呂敷を広げてあたかも魅力的な商品があるようにみせかける。
多くの国民はそれが本物かどうか、嘘ではないのかという疑問さえもつ心のゆとりがない。

二人に共通するものの中でもっと不気味なのは、二人ともヒトラーが抱いた純血主義や優生思想に似た考え方で支えられていることである。トランプはKKKのようなアングロサクソン系白人の純血主義的なレイシストに支持されている。一方、安倍総理は在特会のような純日本人の優越意識に根差したレイシストに支持されている。彼らがトランプや安倍を支持するのは、まさに同じ純血主義的考え方を共有する指導者とみなされているからであろう。

もともとアメリカ人とは神に選ばれて新大陸を与えられた清教徒の子孫であり、ユダヤ人に共通する選民思想が彼らにあった。その清教徒の子孫が移民や難民の流入によって乱され、本来のアメリカ人の崇高な性質が評価されず、逆にないがしろにされるようになった。そのような白人の純血主義的考え方に共鳴する人々がトランプ候補やあるいはクルーズ候補を支えているのだろう。

一方、われわれの国においても、ここ数年の間に急速に台頭してきた純血主義的日本人の選民思想がある。彼らは在日と称される朝鮮人を差別することは当然のことだとしており、朝鮮人や中国人は日本人に比べてはるかに劣等な民族だと信じている。太平洋戦争即ち大東亜戦争も彼らによれば聖戦であり、邪悪な白人植民地主義者からアジアを解放するために行った正義の戦争であったというわけである。

いずれにしても、このような強い民族主義は前時代のものであり錯覚にすぎないものであり何より危険なものである。そのことに早く気づかなければならないのではないか。

本項未定です(4月3日)
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